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東京地方裁判所 平成7年(ワ)22974号 判決

原告 上野産業株式会社

右代表者代表取締役 上野正樹

右訴訟代理人弁護士 吉岡桂輔

同 大塚正和

同 児玉晃一

右吉岡桂輔復代理人弁護士 清野英之

被告 小宮山弘補

被告 小宮山元隆

被告 中塚勉

被告 深水憲一

被告 中島嘉之助

被告 谷利博

右六名訴訟代理人弁護士 増田健郎

同 原田裕

同 岩崎利晴

被告 藤田文隆

被告 青山彬

右二名訴訟代理人弁護士 中山俊治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金二億二〇〇〇万円及びこれに対する平成七年七月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

本件は、原告が、被告らの経営する電話回線のリ・セールを業とする会社に対する出資を勧誘され、出資を行ったが、右会社の経営状態は極めて悪く、原告が出資した資金は、被告らの右会社に対する債権の回収に充てられてしまい、原告の出資の目的が達せられなかったため、主位的請求原因として、原告が勧誘により出資した資金は、もともと営業資金として用いられる予定がなく、被告らの債権回収を目的としたものであり、直接原告を勧誘した被告らの行為は詐欺による不法行為に該当し、その他の被告には取締役の監視義務違反があることを根拠に損害賠償を求め、予備的請求原因として、被告らの右会社の営業状態悪化により、原告に間接損害が発生したとして、取締役の経営に対する義務違反に基づく損害賠償を求める事案である。

一  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、末尾に掲記の各証拠によって容易に認定できる(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない)。

1  当事者

(一) 原告は不動産の管理、各種情報の収集処理及び販売に関する事業等を営む株式会社である。

(二) 訴外テレメディア株式会社(以下「TM社」という。)は電話回線のリ・セール(NTTから電話回線を借り受け、自らが自由に料金を設定して契約客にこれを利用させる。)を主たる業とする株式会社である。

被告小宮山弘補(以下「被告弘補」という。)は同社の代表取締役、被告小宮山元隆(以下「被告元隆」という。)、被告中塚勉(以下「被告中塚」という。)は同社の取締役であり、被告藤田文隆(以下「被告藤田」という。)、名原悟(以下「名原」という。)は元取締役(被告藤田は、平成七年三月一三日辞任、名原は、同年二月二〇日辞任、辞任の登記は両名とも同年四月三日になされている。)である。

(三) 訴外テレメディアサービス株式会社(以下「TMS社」という。)はTM社の関連会社である。被告深水憲一(以下「被告深水」という。)は同社の代表取締役、被告中島嘉之助(以下「被告中島」という。)、被告谷利博(以下「被告谷」という。)、被告青山彬(以下「被告青山」という)、山村弘幸(以下「山村」という。)は同社の取締役である。

2  事実経過

(一) 平成七年二月中旬ころ、原告社長室長佐々部宏(以下「佐々部」という。)は、知人からTM社の被告青山を紹介され、同被告から、TM社の行っている通信ビジネスへ参加するよう勧誘された。

以後原告は、被告青山、同藤田、同中塚及び山村らからTM社の通信ビジネスへの出資を要請された。

(二) 右出資の方法として、原告は、平成七年六月下旬、TM社との間で、同社の発行する二億円相当の転換社債を買取ること及び二〇〇〇万円相当の株式を全て引き受けることを合意した。

原告は、平成七年七月一二日に一億二〇〇〇万円、同月二七日に一億円の合計二億二〇〇〇万円をTM社の普通預金口座に振り込んだ。

(三) 右一億二〇〇〇万円の振り込みの日の翌日である同月一三日、一億二〇〇〇万円がTM社の口座から引き出され、同額がTMS社の預金口座に振り込まれた。翌一四日、TMS社の右口座から「専務返済」との名目で八三〇〇万円が払い戻され、同月一八日には「青山氏へ」として三〇〇万円が、同口座から払い戻された(甲第九、一四、一五号証)。

また、右一億円が振り込まれた日である同月二七日、一億円がTM社の口座から引き出され、同額がTMS社の預金口座に振り込まれた。翌二八日、TMS社の右口座から「専務返済」の名目で六〇〇〇万円が払い戻された(甲第九、一四、一五号証、第一九号証の一)。

(四) TM社は、右払込から法定期間である二週間を経過しても株式数変更の登記も転換社債発行の登記もしなかった(商法一八八条二項、六七条、三四一条の四)。

(五) 平成七年一〇月、TM社は、資産や通信設備に仮差押えを受け、業務継続が不可能となって、事実上倒産した。

二  争点及び当事者の主張

原告は、以下のとおり主張し、被告らはこれを争っている。

1  詐欺不法行為及び監視義務違反(主位的請求原因)

(一) 詐欺不法行為(被告中塚、同青山及び同藤田)

被告中塚、同青山、同藤田は、共同して、故意又は過失により、TM社の経営が破綻しているのに優良な企業であるように装い、原告からTM社に払い込まれる資金は被告中塚及び同藤田に対する返済と同青山に対する報酬にあてる意図があったのにこれを秘匿し、TM社の設備投資に用いられるかのごとく原告を誤信させて、原告に合計二億二〇〇〇万円を振り込ませたものであって、被告中塚、同青山及び同藤田は、共同不法行為に基づき、連帯して二億二〇〇〇万円の損害賠償責任を負う。

(二) 取締役の監視義務違反

右三名以外の被告らは、TMS社又はTM社の取締役として、他の取締役、使用人その他の者の業務執行行為を監視し、不当な職務の執行を制止する等して未然にこれを防止する策を講ずる等会社の利益を図るべき義務を負っていた。

しかし、右三名以外の被告らは、故意又は重大な過失により右注意義務を怠り、被告中塚、同青山及び同藤田が、原告に対し共謀して右(一)の不法行為を行うことを放置し、原告に二億二〇〇〇万円の損害を負わせた。

よって、右三名以外の被告らは、商法二六六条の三第一項により、原告に対し、右損害を賠償する義務を負う。

2  経営悪化・資金流出の注意義務違反及びこれに対する監視義務違反

(予備的請求原因)

(一) 原告の債権

原告は、TM社に対し出資の中止を申し入れ、平成七年八月二五日、原告TM社間で、TM社が原告に対し二億二〇〇〇万円の返還義務を負っていることを確認し、金一億円について同月末日までに返還する旨の合意をし、TMS社は、TM社の右債務を連帯保証する旨約した。したがって、原告は、同月二五日、TM社に対し二億二〇〇〇万円の出資金返還請求権を、TMS社に対し右債権の保証債務履行請求権を取得した。

(二) 原告の損害

TM社は、さまざまな会社に対して代理店事業への投資勧誘を行い、その投資資金を運転資金として利用していたが、何ら経営体質を改善することなく、資金不足になると別の出資先を探してその場をしのぐという経営を継続してきた。

また、原告の振り込んだ金員は、TM社からTMS社の口座に移転され、金一億四六〇〇万円は払い戻しの後、被告中塚に交付された。

TM社は、平成六年度の経常損失約三億四〇〇〇万円(甲第一一号証)であり、他にめぼしい資産はない。また、TMS社は、実質ペーパーカンパニーであり、平成七年九月四日の預金残高は三万七二三二円であって、保証債務の履行は困難である。

よって、原告はTM社に対する債権相当額の損害を被った。

(三) 被告らの義務違反

(1)  被告弘補の義務違反

<1> 経営悪化

被告弘補は安易な経営体制を改善することなく会社経営を続け、その結果として、平成六年度にはTM社に三億四〇〇〇万円もの経常損失を生じさせ(甲第一一号証)、同社の資産状態を悪化させた。

<2> 資金流出

被告弘補は右2(二)のとおり原告の出資金をTMS社に流出させ、更にTM社の資産状態を悪化させた。

<3> 右<1><2>の行為が故意又は重大な過失による取締役の忠実義務違反であることは明白である。

(2)  被告元隆の義務違反

被告元隆は、TM社の取締役として、右弘補の<1>経営悪化、<2>資金流出行為を放置した点に、故意又は重大な過失による監視義務違反がある。

(3)  被告中塚の義務違反

被告中塚は、TM社の取締役として、右弘補の<1>経営悪化、<2>資金流出行為を放置した点に、故意又は重大な過失による監視義務違反がある。

また、被告中塚は、原告が振り込んだ二億二〇〇〇万円を即座に払い戻させ、TMS社を通じて合計一億四六〇〇万円の金員を得ている。このように、被告中塚は三億円以上もの欠損金を出しているTM社の資産(甲第一一号証)をさらに減少させ、自ら原告から送金した資金を受領して自己の利益のみを優先させており、これが故意又は重大な過失による取締役の忠実義務違反の行為であることは明白である。

(4)  被告藤田の義務違反

被告藤田は、TM社取締役の任期中において、右弘補の<1>経営悪化を放置した点に、故意又は重大な過失による監視義務違反がある。

(5)  被告深水の義務違反

被告深水はTMS社の資産状態が不良であることを知りながら、同社に振り替えられた原告の出資金を被告中塚に交付し、同社の資産を散逸させて更にその資産状態を悪化させた。この行為が、故意又は重大な過失による取締役の忠実義務違反であることは明白である。

(6)  被告青山、同中嶋及び同谷の義務違反

被告青山、同中嶋及び同谷は、TMS社の取締役として、右深水の業務執行を監視する義務があるのにこれを怠り、漫然と被告深水がTMS社の資金を被告中塚に流失させるのを放置した点につき、故意又は重大な過失による監視義務違反がある。

第三当裁判所の判断

一  事実経過

前記前提事実、甲第一ないし九号証、第一一ないし一五号証、第一六号証の一ないし六、第一七ないし一九号証の各一、二、第二〇ないし二六号証、第三二号証、第三六ないし四〇号証、第四四号証、乙第一号証、第二号証の一ないし三、第四号証、第五ないし七号証の各一、二、第八ないし一二号証、第一四号証の一ないし四、第一五ないし二六号証、第二七号証の一、二、第二八ないし三四号証、第四〇ないし四七号証、丙第一ないし四号証、第九、一〇号証、第一二号証の一ないし五、第一三ないし一六号証、<1>証人佐々部宏、同山村弘幸の証言、<2>原告代表者尋問の結果、<2>被告藤田文隆、同青山彬、同小宮山弘補、同中塚勉、同深水憲一本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  原告勧誘まで

(一) 被告弘補は、昭和五二年から平成二年まで訴外扶桑通信株式会社の下請業者として電話の宅内工事や交換機保全の工事などを行っていたが、その知識と技術を生かして、平成三年二月にTM社を設立し、通信事業を始めた。

平成四年六月から、オンワート樫山の子会社であるオーク株式会社と業務委託契約を締結し(乙第二七号証の一、二)、料金データの集計、請求業務の代行、新規申込受付などの事務を行うとともに、同社と業務提携して、電話の国内公専公接続に関する規制緩和を睨んで、電話回線のリ・セール事業を開始したが、一年間事業を行っても営業成績が振るわなかったため、オーク株式会社は事業から撤退した。

そこで、平成五年から、TM社が独自で事業を行うことになった。それまでに設置した通信機材の購入代金や人件費の支払いのための資金繰りが困難であったが、被告弘補自身で工面した。

TM社の事業は、東京、大阪などの都市に賃借した場所に数千万円以上する交換機設備や電送装置等を設置して基点を設け、この基点が設置されている都市間において、NTTより安い通話料での通信サービスを提供するというものであった。設備費として、TM社が独自で事業を行うことになった時点で、既に六億円を超える資金が投入されていた。

右通信サービスの利用については、一般の電話加入者は、TM社の専用アダプターを設置することで通常の電話と同じ方法で利用することができた。この一般の電話加入者の募集は、TM社が直接行うのではなく、代理店を募集し、その代理店が行うというシステムがとられた。この代理店には営業代理店と賛同代理店の二種類あった。営業代理店と賛同代理店の違いは、賛同代理店はTM社に請託金と称する預託金を提供するが、営業代理店は提供しないという点、及び、賛同代理店は一般の利用者が使用した通話料の一五パーセントの手数料を得られるが、営業代理店では五ないし一〇パーセントしか得られないという点にあった。

当初は、東京大阪間のみで通話可能であったが、七大都市にネットワークを広げることが計画されていた。

(二) 平成六年秋から末にかけて、被告弘補は、山村及び被告青山にTM社で働くよう勧誘し、同人らもこれを了承した。被告深水も、同年末ころ、被告弘補及び山村から誘われて同社で働くようになった。このようにして、TM社のために働くようになった被告青山は、同年一〇月末ころ、名原に対して、TM社の営業代理店となるよう勧誘したので、名原は、名原工業株式会社の名義で、これに応じ(丙第九、一〇号証)、さらに、同社や株式会社名原興産の名義で、被告弘補に対して五五〇〇万円を出資した(丙第一二号証の一ないし五)。また、被告弘補は、被告藤田からも総額一億二〇〇〇万円を借り受けていたが、右のとおり出資等をした名原及び被告藤田に対し、TM社の取締役になるよう求め、同人らもこれに応じて、平成七年一月一二日、同社の取締役に就任した。

2  原告勧誘の状況及び資金の振り込み

(一) 平成七年二月

(1)  原告TM社間の状況

平成七年二月、被告青山は、知人を通じて原告社長室長佐々部と知り合い、札幌及び広島でのTM社の事業を展開するため、TM社の賛同代理店となって、TM社に出資するよう勧誘した。被告青山は、原告に対し、TM社の決算報告書(甲第三二号証)を提出した。同決算書の平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの損益計算書には、二億四〇〇〇万円を超える売上高が上がっており、経常利益も二五五万円計上されていた。(この点、被告青山は、右決算報告書を渡したのは被告弘補であると供述しているが、被告弘補は直接営業活動を行っておらず、この時点で原告と接触していたわけではないし、帝国データバンクに存在していた資料などとも齟齬しない内容の決算報告書だったのであるから、被告弘補が、敢えて営業担当の被告青山に隠した上で、これを原告に提出したというのも不自然であり、佐々部及び原告代表者の被告青山から決算報告書を受け取ったとの供述に照らして、被告青山の右供述は採用できない。)

同月二四日、被告青山は、東京に所在する原告の事務所を訪れ、賛同代理店のシステムについて説明し、原告からは更に詳細な資料を提出するよう求められた。

以降、原告側も、TM社の通信ビジネスに興味を持ち、新聞を調べ、NTTの関係者に質問をするなどして調査を行い、被告弘補が所有しているという特許についても公開されていることを確認した。また、TM社の資金の状況なども帝国データバンクから資料を取り寄せて確認するなどした。

(2)  TM社内の状況

同年二月、被告深水は、被告弘補からTM社に出資をしてくれる企業を探して欲しいと頼まれ、知人の訴外海谷に相談すると、何人か紹介を受け、その中に被告中塚がいた。被告深水は、事業内容について詳しい説明ができなかったので、被告中塚を被告弘補に会わせ、その結果、被告中塚は、被告弘補に依頼されて、被告弘補の船舶及び同被告の妻所有の自宅建物と土地を担保に取ることで融資をすると約束した。

同月二〇日、名原は、前記のとおり既に五五〇〇万円を出資していたものの、TM社の経営状態が悪く、被告弘補は技術者で会社の経営手腕に疑問がもたれたため、被告弘補に対し、経営は他の経営者に任せ、被告弘補は技術面に専念するよう、経営改善のための方策を進言したが、受け入れられなかったため、同社の取締役を辞任した。辞任の登記は、同年四月三日になされた。

同月末、被告藤田は、TM社に対して五〇〇万円を、翌三月初旬、三四〇万円を貸し付けた(被告藤田)。

(二) 同年三月

(1)  原告TM社間の状況

同年三月二日ころ、原告代表者上野(以下「上野」という。)及び佐々部は、大阪に所在するTM社を訪問し、被告青山から事業の説明を受けた。この際、被告青山は、被告藤田を紹介した。被告藤田は、自分が大阪国税局OBの税理士であること、TM社の副社長であること、TM社の事業は将来有望であると思われることを話した。被告藤田が上野らと面談していた時間は一〇分程度だった。

同月一〇日、被告弘補は、被告青山の名義で、原告から依頼されていた事業内容・事業計画についての説明書(甲第二一号証)を、原告にファックスで送付した。

(2)  TM社内の状況

三月一三日、被告藤田は、既に一億円以上貸し付けていたものの、名原と同様に、被告弘補にTM社の経営を改善するための方策を進言したが、受け入れられなかったため、同社の取締役を辞任した。辞任の登記は同年四月三日になされた。

被告中塚は、三月一〇日、被告弘補から依頼されたTM社に対する五〇〇〇万円の融資を実行し(乙第一五号証)、さらに、同月二〇日に二〇〇〇万円(乙第一六号証)、同月末に二五〇〇万円を融資した(乙第一七号証)。この二五〇〇万円は、被告藤田に対する貸金の返済に充てられた。(なお、この点につき、乙第三六号証は措信できない。)

(三) 同年四月

(1)  原告TM社間の状況

同年四月一二日、被告青山は、山村を連れて、原告の事務所を訪問し、同人を紹介した。被告青山及び山村は、上野及び佐々部に対し、賛同代理店となるようさらに勧誘し、山村作成の事業計画書(丙第一号証)を提出した。このとき、約二億円の予算内で電話回線のリ・セール事業の拠点を札幌と広島に設けることを検討するという話し合いがもたれた。

同月二四日、佐々部は、大阪に出張し、被告青山から、被告中塚が新たに役員になったと紹介された。被告中塚は、あまりTM社の事業には詳しくないが、原告のような立派な会社が乗り出してくれれば有り難いという趣旨の話をした。

(2)  TM社内の状況

同月二六日、TM社と訴外ジャパンフィットネス株式会社との間で賛同代理店契約が締結された(丙第三号証)。

同月二八日、被告中塚は、TM社に対し、三五〇〇万円を融資した(乙第一八号証)。

(四) 同年五月

(1)  原告TM社間の状況

同年五月八日、山村は、原告本社を訪問し、原告TM社間で営業代理店委託契約が締結された(乙第一号証)。営業代理店は出資を伴わない契約であったが、山村は、さらに出資を伴う賛同代理店となるように勧誘した。これに対し、上野は、原告と従前から関係のあった訴外千代田産業株式会社の訴外藤川蔵人(以下「訴外藤川」という。)からの発案を受けて、山村に対して、二億円の出資につき転換社債を引き受ける形で行いたいとの提案をなし、山村はその提案を持ち帰った。

同月一八日ころ、山村は、被告弘補に対し、上野からの転換社債の形式で融資をしたいとの提案を諮ると、被告弘補は、原告が乗っ取りを企むものでないことがはっきりするのであれば、了解すると答えた。そこで、山村は、原告に、電話で、転換社債発行という方法でよいと回答した。翌一九日に、原告は、TM社から転換社債の引受依頼書を受領した。そして、同月三一日、転換社債の発行手続をTM社を代行して行うことになっていた訴外藤川から、佐々部に対して、TM社から着手金二〇万円を受け取り、正式に手続に入った旨の連絡があった。

(2)  TM社内の状況

被告中塚は、TM社に対して、さらに、同月一五日ころ、一三〇〇万円(乙第一九号証)、同月二二日に、一〇〇万円を融資し(乙第二〇号証)、同月二六日に、TM社の従業員に給料を支払うための資金として、一六〇〇万円を融資した(乙第二一号証)。

同月二三日、実体のなかった株式会社アスカの商号をTMS社に変更し、同日、被告深水が代表取締役に、同中島、同谷、同青山、山村が、取締役に就任して、同月二五日その旨の登記がなされた(甲第二号証)。TMS社では、TM社の事業に関する営業部門を担当することを予定していた(乙第二九、三〇号証)が、取締役会が開かれることもなく、資産や収入もなく、TM社と独立した実体を有するものではなかった。

(五) 同年六月

(1)  原告TM社間の状況

同年六月四日、TM社は、代理店募集のためのビデオ撮影会(甲第三六号証)を実施し、佐々部もこれに参加した。このとき、被告中塚が、TM社の専務になったと挨拶した。

同月一二日、被告中塚及び山村が原告の事務所を訪問し、原告TM社間で、賛同代理店委託契約が成立した(乙第二号書の一、二)。そして、訴外藤川作成の転換社債買取契約書(乙第三号証)も作成された。同契約書では、同月二二日に、原告が二億円を払い込んで転換社債の発行を受けることが定められた。また、同時に原告がTM社の乗取りをしないことの念書(乙第二号証の三)も作成された。

ところが、同月一六日ころ、被告中塚に犯罪歴があるとの情報が原告側に入った。原告は、犯罪歴のある者が公共の通信ビジネスに参画していることに疑問を感じ、出資を中止したいと考えるようになった。そこで、佐々部は、同月二一日、翌二二日に支払う予定になっていた二億円は資金の都合が付かないという理由で支払えないと、まず被告青山に謝罪し、同月二二日には、TM社を訪問して、被告中塚を含むTM社の関係者に謝罪したが、被告中塚は、契約をしている以上このままでは済まない、裁判沙汰になる、社長に会わせろという趣旨の発言をして、佐々部の謝罪を受けつけなかった。

そこで、佐々部は、円満に撤退するためには弁護士の介入が必要と考え、訴外米山安則弁護士(以下「米山弁護士」という。)に相談した結果、米山弁護士から、弁護士から事業の出資を中止するよう指示を受けたという話をするようアドバイスを受けた。同月二七日、佐々部は被告中塚を訪問し、被告中塚の犯罪歴が問題だという話をしたところ、被告中塚から、弁護士に会わせるように求められ、同月二九日、佐々部は、米山弁護士とともに、被告中塚を訪問した。この話し合いで、被告中塚がTM社の事業から撤退する代わりに原告の出資を継続することが大筋で決まった。このとき、被告中塚は米山弁護士に、被告中塚がTM社や被告弘補に融資した貸金は回収したいと話した。融資額までは言及しなかったが、翌三〇日に、米山弁護士が山村に電話して確認したところ、一億六〇〇〇万円の貸付金があり、さらに今後二〇〇〇万円は融資を受ける予定であるとの回答を得た。米山弁護士は、右の内容を同日付けの報告書で原告代表者に報告している(乙第八号証)。(この点、原告は、被告中塚がTM社に融資している話を一切しておらず、原告に隠していたと主張しているが、右のとおり六月二九日の時点で、被告中塚は初対面の米山弁護士に貸金があるとの話をしており、しかもこの融資額をTM社に対して口止めしていたような形跡も全く見えないのであるから、被告中塚が殊更に融資を隠していたという事情は認められない。)

(2)  TM社内の状況

同月初めころ、大阪福岡間でTM社の電話の使用が可能となり、同月末ころには、大阪名古屋間でも通話が可能となった。

同月五日、TMS社と訴外株式会社テレメディア沖縄(以下「TM沖縄」という。)との間で、営業代理店契約が交わされた(乙第五号証の一)。また、同日、TM沖縄がTMS社に請託金二億円を出資するという賛同代理店契約が締結された(乙第五号証の二)が、結局、右請託金二億円は支払われなかった。

同月二〇日、TM社と訴外大阪電産サービス協同組合(以下「大阪電産」という。)との間で、営業代理店契約が締結され(丙第二、四号証)、大阪電産が預託金一億円をTM社に預託することが約された。右契約に先立ち、大阪電産は、同年五月三一日に一〇〇〇万円、六月二日に二〇〇〇万円を、TMS社の口座に振り込み、契約締結日の同月二〇日に残金の七〇〇〇万円を振り込んだ(甲第九号証)。

(六) 同年七月

(1)  原告TM社間の状況

七月四日、横浜所在の米山弁護士の事務所で、原告代表者上野、佐々部、米山弁護士、被告中塚、山村で打ち合わせを行った。このとき、出資の方法として、二億円の転換社債発行に加えて、TM社から二〇〇〇万円の新株発行を行うとの話が出された。また、上野から、被告中塚の退任のみならず、被告弘補を経営からはずすこと、被告弘補の株を被告中塚が押さえるため、被告中塚と同弘補との間で株の譲渡担保契約を締結すること、原告から佐々部を含めて社員二名を派遣することの提案がなされた。

同月七日、米山弁護士と佐々部は、大阪のTM社の事務所を訪問し、被告弘補、同中塚、同深水、山村と会った。そして、被告中塚は、同人が七月末までに辞任登記を行うこと、被告弘補が経営から離れること、新代表取締役を選任すること、原告からTM社へ役員二名を派遣することなどを内容とする念書(甲第二三号証)を提出した。被告中塚は、同念書はTM社内の根回しができていないという理由で、被告弘補及び山村が席を外したときに提出した。また、原告は、「新株発行に関する協定」(甲第四号証)を受領した。このとき、同月一二日に、一億円の社債買取代金と二〇〇〇万円の新株引受金を、同月二七日に残りの社債買取代金一億円を、原告がTM社に振り込むことを合意した。この交渉の後の飲食の席で、被告中塚は米山弁護士に貸金業などの事業を色々営んでいるとの話をした。

同月一二日、米山弁護士と佐々部は、必要書類を徴求しにTM社を訪問した。同日までに山村は、二〇〇〇万円分の新株を発行するとの議事録を作成しており(甲第二四号証)、被告弘補は、押印を渋っていたが、原告からの出資を得る必要から、結局、被告弘補及び同中塚らの押印がなされた。そして、米山弁護士は、TM社が転換社債の発行を約束どおり行うから出資をお願いするとの念書にTM社の記名捺印を得たものを受け取った(甲第二五号証)。この話し合いの席で、登記手続を行うことになっていた山村司法書士(山村弘幸とは無関係)に電話で確認がなされた。以上の経緯を佐々部が上野に連絡し、原告は一億二〇〇〇万円をTM社の口座に振り込んだ(甲第五号証)。

同月一四日、被告弘補は、米山弁護士の事務所を訪問し、山村司法書士から登記手続ができないと断られたと報告し、謝罪した(乙第二五号証)。

そのころ、米山弁護士は、佐々部に対して、登記手続の関係について問い合わせると、佐々部は、山村司法書士が手続に慣れていないから原告側で手続を行い、訴外藤川の方で手配して行ってもらうことにしたと答えた。同日以降、訴外藤川が、二億円分の転換社債を同月二七日に発行するとの転換社債買取契約書(甲第三号証、乙第四号証)を作成した。

同月二七日、佐々部は、TM社の事務所において、TM社及び被告弘補が転換社債の買取契約書に押印したことを確認し、原告は、TM社の口座に一億円を振り込んだ(甲第六、七号証)。

ところで、原告は、従前からTM社の会計監査をしたいと申し入れていたが、佐々部の身内に不幸があったりしたため延び延びになっていたところ、翌二八日、ようやく監査の日時が合い、佐々部及び原告の藤田総務部長ら五名がTM社の帳簿等の開示を求めたが、振替伝票の開示のみがなされただけであった。この監査の結果、TM社の月間売上高は三〇〇万円程度しかなく、到底支出をまかなえず、不足分は被告弘補らからの借入でおぎなっている状態であることが分かり、佐々部は二億二〇〇〇万円の出資が保全されるかについて強い不安を抱いた。なお、原告が依頼した税理士が作成した平成六年一〇月一日から平成七年八月三一日までの損益計算書(甲第一一号証)では、純売上高は三六八〇万円余にすぎず、販売及び一般管理費が三億二八〇〇万円余も計上されて、経常損失は三億四〇〇〇万円余であるとされている。

(2)  TM社内の状況

七月の時点で、TM社の営業代理店は、東京、大阪に各三〇社ほど、名古屋、福岡に二〇社ほどあった。

同月一〇日、TM沖縄と同様に、訴外株式会社土斐崎商事(以下「土斐崎商事」という。)とTMS社との間で営業代理店契約、賛同代理店契約が締結され、土斐崎商事が請託金二億円を出資することになっていた(乙第六号証の一、二)。しかし、請託金については結局支払われなかった。

同日、被告中塚は、被告弘補から依頼され、さらに三三〇〇万円を融資した(乙第二二号証)。

同月一二日に、右(1) のとおり一億二〇〇〇万円が原告からTM社に振り込まれたが、翌一三日、TM社の口座から一億二〇〇〇万円が引き出され、TMS社に移され、さらに、「専務返済」の名目で、八三〇〇万円が引き出されて、被告中塚の貸金の返済に充てられた。

同月一八日、TMS社の口座から三〇〇万円が引き出された。この三〇〇万円と資金の出所は不明であるが他の二〇〇万円を併せた合計五〇〇万円が八月三日、大阪電産を賛同代理店として獲得したことの手数料として、被告青山に支払われた(甲第九、一五、二六、三九号証)。

七月二七日、被告中塚はTM社に一〇〇〇万円を融資した(乙第二三号証)。

同日、右(1) のとおり一億円が原告からTM社に振込まれたが、右一億円はTM社の口座からTMS社の口座に移し替えられ、翌二八日、その内六〇〇〇万円が「専務返済名目」で引き出され、被告中塚の貸金返済に充てられた。

3  その後の経緯

(一) 同年八月一日、被告中塚は、約束より一日遅れたが、TM社の取締役を辞任した(乙第七号証の一、二)。しかしながら、原告は、TM社の経理内容が極めて悪化していることや、事業としての難しさを改めて認識し、同社に出資した資金を回収することを望むようになった。ところで、原告は、会計監査や被告らの説明を聞いて、TM社に振込んだ出資金がTMS社の口座に移されていること、TMS社の口座から被告中塚に資金が流れていることを知り、被告中塚を懐柔して、資金の回収を図ることを考えるようになった。そこで、上野は、被告中塚に、被告弘補の株及び特許を手に入れて、原告と被告中塚とで新しく事業を始めるよう持ち掛けた。

同月二日、被告中塚は、被告弘補から同人所有のTM社の株の所在を聞いたところ、被告弘補は、被告藤田の貸金一九〇〇万円の担保に提供していると答えたので、被告中塚は、TM社から返済を受けた六〇〇〇万円の内一九〇〇万円を再度TM社に貸し付ける形をとり、TM社のかわりに被告藤田に一九〇〇万円を弁済し、株を取り戻した(乙第二四号証)。

同月一〇日、被告中塚は、TM社への貸金の担保として被告弘補の特許を預かることにし、名義を被告中塚へと変更した。

お盆のころ、佐々部は、被告中塚を懐柔する手段として、新会社構想(乙第一二号証)を持ち掛け、被告中塚から資金を返還させようと試みたが、断られた。

この間にも米山弁護士が、再三大阪を訪れ、出資金回収の申し入れを行っていた。

そして、同月二五日、米山弁護士は、被告弘補及び同深水と交渉して、TM社及びTMS社から、念書(甲第八号証)をとり、原告TM社間で、TM社が原告に対し金二億二〇〇〇万円の返還義務を負っていることを確認し、金一億円について同月末日までに返還する旨の合意をし、TMS社は、TM社の右債務を連帯保証する旨約した。

九月に入り、被告中塚が新会社構想について詰めるために原告を訪れたが、原告はもともと被告中塚と組んで新会社を興すつもりはなく、出資金の返還を認めた右念書(甲第八号証)をとることもできたためか、被告中塚に冷淡な対応をし、同年一〇月には、被告中塚の土地建物に仮差押をするに至った。

このように、原告が撤退したことで、TM沖縄、土斐崎商事もTM社の事業から撤退した。

一〇月九日には、TM社の資産、設備等に仮差押えがなされ、通信設備の利用ができなくなったため、事実上TM社は倒産した。

TM社の事業は、引き継げる部分に関しては、以後、大阪電産の訴外中山正吉が経営するテレネス株式会社に引き継がれた(乙第三一号証、第三四号証)。

二  争点1(詐欺)について

1  被告中塚、同青山、同藤田について

原告は、被告中塚、同青山及び同藤田が、共同して、故意又は過失により、TM社の経営が破綻しているのに優良な企業であるように装い、原告からTM社に払い込まれる資金は被告中塚及び同藤田に対する返済と同青山に対する報酬にあてる意図があったのにこれを秘匿し、TM社の設備投資に用いられるかのごとく原告を誤信させて、原告に合計二億二〇〇〇万円を振込ませたとして、被告中塚、同青山、同藤田の詐欺による共同不法行為を主張するので、この点につき検討する。

まず、TM社の業況であるが、平成七年七月二八日にした原告の会計監査の結果によれば、そのころのTM社の売上は月間三〇〇万円程度であったのであって、同監査によって税理士が作成した損益計算書(甲第一一号証)では、純売上高が三六八〇万円余にすぎず、販売及び一般管理費が三億二八〇〇万円余で、経常損失が三億四〇〇〇万円余とされていることからすると、このころのTM社の経営は、危機的状況にあったことが明らかである。しかしながら、他方で、平成七年二月ころ、被告青山が原告に交付したTM社の平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの決算報告書(甲第三二号証)には、年間二億四〇〇〇万円を超える売上高と二五五万円余の経常利益が掲げられているのである。そうすると、このような売上急減の原因が何か、その始まった時期がいつか等が、TM社が既に破綻していたといえるかどうかの判断を左右する事情になるし、また、被告らのTM社への各関与時期との関係、すなわち、被告青山、同深水がTM社に関与するようになったのは平成六年秋から同年末のことであり、被告藤田がTM社の取締役であったのは平成七年一月から四月までの間に過ぎず、被告中塚がTM社に貸付をするようになったのは、原告とほぼ同時期の平成七年二月のことであるという各関与時期との関係で、売上急減の開始時期が、TM社の業績悪化を被告らが知っており、原告に対する出資を勧誘することは原告に損害を与えることになるかもしれないとの予測可能性があるかどうかの判断に重要な事実になるのである。しかしながら、このような急激な売上の落ち込みの理由は、TM社の破産管財人の第一回報告書(甲第四〇号証)記載のとおり、粉飾決算の可能性も考えられるし、また、第二電電等の大資本の参入による競争激化のためであったとも考えられるものの、本件全証拠によっても、いずれとも決することはできないし、売上急減の時期も確定できないから、結局、本件全証拠によっても、原告が出資をした時期においてTM社は実質破綻状況にあったものかどうか、被告らがこれを知っていたものかどうかを認定することはできないのである。

また、TM社の資金がTMS社に振り込まれた点についても、ペーパーカンパニーを設立し、資金を回収したのではないかと疑わしめる事情ともなりそうであるが、その割りにはあまりにも単純な仕組みであるし、TM沖縄や土斐崎商事との間の賛同代理店契約書の名義がTM社ではなくTMS社となっていることは、TM社の営業部門をTMS社が担当することになったという被告らの説明と合致しているのであって、原告を欺罔するためにTMS社を設立したと考えるのは無理があるといわざるを得ない。

これらの点で、被告らの共同不法行為を立論する原告の主張は根拠が薄いというべきであるが、以下、さらに各被告毎に検討する。

2  被告中塚について

被告中塚は、原告からの出資後、速やかに自己の貸金の返済を受けていることから、被告中塚において、原告からの出資金によって自己の貸金回収を意図していたことは否定できない。

しかし、平成七年六月二九日に、被告中塚は、米山弁護士に対して、TM社に対する貸金があり、その回収を希望していることを話しており、米山弁護士も債権額を把握し、報告書を作成して、上野、佐々部に報告していたことが認められる。そして、同年七月七日に、被告中塚は米山弁護士に自分が貸金業を営んでいるという話をしており、ことさらに資金回収を隠していたとも考えにくい。被告中塚は、債権を弁済期前に回収しているが、それは、原告が被告中塚の犯罪歴を問題視し、被告中塚をTM社から排除しようとしたため、被告中塚において取締役を辞任するにあたって自己の債権を回収したと認められるのであって、一概に被告中塚の行為を非難することはできないのである。

したがって、被告中塚は自己の債権の回収の意図を秘匿していたとは認められないし、被告中塚が原告に対し詐欺を働いたと認めることもできないものといわざるを得ない。

なお、原告は過失による詐欺を主張しているが、詐欺は相手方を欺罔して錯誤に陥れる故意が本質的に要求される違法行為であるから、過失による詐欺の主張は認められない。

3  被告青山について

被告青山は、原告に対し、平成七年二月ころ、甲第三二号証の決算報告書を提出したところ、右決算報告書には、平成五年一〇月一日から平成六年九月三〇日までの期間に、二億四〇〇〇万円を超える売上高と二五五万円余の経常利益が上がったと記載されていたが、これは粉飾決済の可能性もあることは前記のとおりである。

しかしながら、被告青山は、前記のとおり、平成六年秋ないし同年末ころからTM社で働くようになったものである上、甲第三二号証の決算報告書の作成名義は被告弘補となっており、当時営業担当の社員に過ぎなかった被告青山が、甲第三二号証の内容が虚偽であると知り、ことさらにこの虚偽の決算報告書を用いて、原告を欺いたとは考えられないし、そのように認めるべき証拠もない。

また、原告の出資金の多くは被告中塚に支払われているが、被告青山が被告中塚の債権回収のために動く利害関係にあったと認めるべき事情は存せず、被告中塚と共謀する理由もない。さらに、前記認定のとおり被告青山が得た金員が原告から出資を得たことの報酬であったと認めることもできないし、被告青山にとって、原告を欺罔することによって後日違法性を問われるリスクを考えれば、右受領した金員は受けるべき報酬とは釣り合わず、TM社が存続することで初めて自己の利益を以後も図っていくことができたのであって、一時の報酬を得るために原告を欺罔したとは認めることができないのである。

したがって、被告青山による詐欺は認められず、過失による詐欺も前記のとおり認められない。

4  被告藤田について

被告藤田は一度、わずか一〇分程度、佐々部らに会っただけで、平成七年三月一三日(登記は同年四月三日)にはTM社の取締役を辞任し、以後、TM社の活動には関与していない。また、被告藤田が回収した資金の出所も被告中塚からであり、被告中塚が原告に貸し付けた資金から弁済を受けた一九〇〇万円も、担保に預かっていたTM社の株と引き替えになされたもので、その株の返還は原告が望んで被告中塚にさせたことに起因しているのである。結局、被告藤田が原告を欺罔したことを認めるべき事情は存しない。

したがって、被告藤田による詐欺は認められず、過失による詐欺も前記のとおり認められない。

5  被告弘補、同深水、同元隆、同中嶋、同谷について

右のとおり、詐欺の実行者と主張された者の詐欺は認められないから、同人らの監視義務違反は理由がない。

三  争点2(経営悪化・資金流出の注意義務違反及びこれに対する監視義務違反)について

1  被告弘補について

前記認定のTM社内の状況からすると、原告主張のとおり、原告が関与し始めたころには、TM社の経営状態は悪く、多額の融資を受けての自転車操業的な経営を繰り返していた面があることは否定できない。しかし、経営を継続するにあたって、資金繰りのため借金を繰り返すことは、破綻が明白確実であるという事情がない限り、許される範囲内の行為であるというべきであるところ、TM社の事業は、初期設備の投資額が高いものの、今後の収益拡大も期待できないものでもなく(現実に、甲第四三号証の総勘定元帳二〇七頁によれば、平成七年九月の売上高は一二〇二万円余となっている)、TM社の最終的な破綻の原因としては、原告の事業撤退も影響していることは否定できないのであって、いずれにしても、TM社は借金が許されない状況にあったということはできないのである。

また、TM社の現金がTMS社に流出し、さらに被告中塚への返済に充てられたことにより、TM社の積極財産が減少したことは否定できないが、その分、TM社の負債も減少しているから、法的には財務内容が悪化したとはいえない。

さらに、原告は平成七年八月二五日に成立した二億二〇〇〇万円の出資金返還請求債権及び保証債務履行請求債権の回収ができなくなったことをもって損害が発生したと主張しているが、その時点で、被告弘補の経営によってTM社の財務内容が変化したとは認められない。

以上のとおり、被告中塚に借金を返済したことにより、TM社が即倒産に追い込まれる状況にあったとまではいえないから、被告弘補に故意過失があり、それによって原告が損害を被ったということはできない。

したがって、原告の主張は理由がない。

2  被告元隆及び同藤田について

右1のとおり、被告弘補の義務違反が認められないから、被告元隆及び同藤田の監視義務違反も認められない。

3  被告中塚について

右1のとおり、被告弘補の義務違反が認められないから、被告中塚の監視義務違反は認められない。

なお、被告中塚が自己の貸金を回収した点については、前述のとおり、被告中塚はTM社の取締役を辞任するにあたって自己の貸金を回収したものであり、また、以後のTM社の継続を即不能にするような状況のもとで回収を図ったわけでもないから、違法性を有するとはいえない。

したがって、被告中塚の義務違反も認められない。

4  被告深水、同青山、同中嶋及び同谷について

原告は、被告深水が、TMS社の資産状態が不良であることを知りながら、TMS社に振り替えられた原告の出資金を被告中塚に交付して、TMS社の資産を散逸させたと主張するが、TMS社への振替入金は、実質的な裏付けなしに、TM社に入金された資金が一時的にTMS社名義の口座に振り替えられたものに過ぎず、これを被告中塚に交付したことによって、TMS社の資産状態が悪化し、原告に損害を与えたとの事情は認められないから、被告深水の義務違反は認めることができず、被告深水の義務違反を前提とする被告青山、同中嶋及び同谷の義務違反も認められない。

四  以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 西村修 裁判官 石井俊和は、外国出張中のため署名押印できない。裁判長裁判官 佃浩一)

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